2016年の電力自由化以降、企業が契約できる電力会社の選択肢は大きく広がりました。
従来は地域ごとの大手電力会社(一般電気事業者)がほぼ独占していた高圧電力の供給も、現在では「新電力(PPS:特定規模電気事業者)」と呼ばれる多様な事業者が参入し、企業にとってコスト削減や契約条件の見直しのチャンスが生まれています。
特に、高圧電力を利用する中小企業や工場、商業施設などにとっては、電力会社を見直すことで年間の電気代を数十万円単位で削減できる可能性もあります。
また、新電力各社は「固定単価型」や「市場連動型」といった多様な料金プランを用意しており、契約者側の電力使用状況やリスク許容度に応じて、より最適な選択が可能になっています。
ここでは、そうした高圧電力の料金構造や新電力各社の違い、固定単価と市場連動型の特徴やリスクまで、徹底的に解説していきます。
電気代を見直したい企業担当者の方は、ぜひ最後までご覧ください。
高圧電力の料金比較の前に知っておきたい電気料金の内訳
高圧電力の契約を見直すうえで、まず押さえておくべきなのが電気料金の構成要素です。
電気代と一言でいっても、実際にはいくつかの項目が積み重なっており、それぞれの意味を理解することでコスト削減のポイントが見えてきます。
ここでは、電気料金を構成する代表的な項目について解説します。
①契約電力と使用電力量の意味
電気料金に影響を与える2つの基本的な指標が、契約電力と使用電力量です。
契約電力とは、電力会社と事前に取り決める最大の電力使用量のことです。
これは基本料金の計算基準となり、ピーク時の需要を想定して設定されます。
多くの場合、過去1年間の最大需要電力(デマンド値)をもとに翌年の契約電力が自動的に更新されます。
つまり、一時的にでも大きな電力を使えば、翌年の基本料金が高くなることがあります。
一方、使用電力量は実際に使った電気の総量を指し、電力量料金の算出に用いられます。
これは月々の電気使用の変動に連動して増減する項目です。
節電が直接的に効果をもたらすのは、この使用電力量です。
契約電力が基本料金に、使用電力量が従量料金に影響するという仕組みを理解しておくことは、料金プランの見直しや節電対策を検討するうえで不可欠です。
②電気料金の内訳
高圧電力の請求書には、いくつかの料金項目が記載されていますが、主にこの4つが核となります。
まず基本料金は、前述の契約電力に応じて定額で発生する料金です。
例えその月にあまり電気を使っていなくても、契約電力が大きければ基本料金は高くなります。
次に電力量料金(従量料金)は、使用した電力量に応じて加算される変動部分で、節電によって直接削減可能な領域です。
この単価は電力会社によって異なり、市場連動型のプランではJEPX価格に応じて毎月変動することもあります。
燃料費調整額は、発電に必要な燃料の輸入価格の変動を反映した料金です。
円安や国際情勢の影響で上下するため、電力会社の努力では抑えにくい項目です。
再エネ賦課金は、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)にかかる費用を需要家全体で負担するための料金です。
これは全国一律の単価で課されており、どの電力会社と契約していても同じ金額が請求されます。
③その他(デマンドペナルティ、力率割引など)
高圧契約には、基本的な料金項目以外にも影響を与える追加要素があります。
その代表がデマンドペナルティと力率割引です。
デマンドペナルティは、あらかじめ契約した上限電力を大きく超えて電気を使った場合に課される追加料金です。
これは設備の安定運用に影響を与えるため、電力会社が過剰な負荷を抑制する目的で設けています。
突発的な機器の稼働や管理不足により発生することがあるため、電力使用のピーク管理が重要になります。
一方、力率割引は、電気の使い方が効率的である場合に基本料金が割引される制度です。
工場や大型機器を持つ施設では、無効電力を抑えて効率よく電気を使うことで、力率が改善され割引が適用されることがあります。
逆に、力率が悪いと追加料金が発生することもあるため、電源設備の整備が経費に影響することもあります。
こうしたその他要素は一見地味に思えるかもしれませんが、契約条件や設備環境によっては年間で大きな差となることもあります。
請求書の内容を細かく確認し、自社の電力使用状況に適した改善策を講じることが、賢い電力コスト管理の第一歩です。
高圧電力の料金比較 固定単価と市場連動プランの違いとは
企業が高圧電力の契約を検討する際、最も重要なポイントの一つが料金プランの種類です。
現在、多くの新電力会社では、従来型の固定単価プランに加え、JEPX(日本卸電力取引所)の市場価格に連動した変動型プランも提供されています。
どちらのプランが適しているかは、電力の使い方や経営方針によって異なります。
ここでは、それぞれの特徴と選び方の視点について詳しく解説します。
①固定単価プランの特徴とメリット・デメリット
固定単価プランとは、契約期間中の電力量料金が一定に設定されている料金体系です。
燃料費調整や再エネ賦課金など一部の費用は変動しますが、電力量単価自体は契約時に決まっており、毎月の使用量に対して同じ単価で計算されます。
このプランの最大のメリットは、料金の予測がしやすく、電気代の変動リスクを抑えられることです。
経費計画が立てやすくなるため、特に予算管理を重視する企業に向いています。
一方で、デメリットとしては、市場価格が下がっている局面でも単価が変わらないため、結果的に割高になる可能性がある点が挙げられます。
市場価格が安定または下落傾向にある時期には、他のプランより不利になるケースもあります。
また、契約単価は一定のリスクを見越して設定されるため、平常時でも市場価格より高めに設定されていることが一般的です。
②市場連動型(JEPX連動型)の特徴とリスク
市場連動型プランでは、JEPXにおける電力の卸売価格をもとに、電力量料金が日々、または時間帯(30分ごと)に変動します。
実勢価格に近い形で電力を調達・供給するため、単価が低い時間帯に電力使用を集中させることでコスト削減が期待できます。
このプランの大きな特徴は、需要と供給に応じて価格がリアルタイムで動くという点です。
日中の太陽光発電が豊富な時間帯などは市場価格が下がる傾向があり、その時間帯に多くの電力を使える業態では、大きなメリットとなります。
一方で、最大のリスクは価格の急騰です。
厳寒期や猛暑、発電設備のトラブルなどで供給が逼迫すると、数倍以上の価格になることもあります。
特に夜間や早朝に電力を多く使う企業や、使用パターンを柔軟に変えられない事業形態では、かえってコスト増になる可能性もあります。
短期的な価格変動に対応するためには、使用状況の可視化やアラートシステムの活用も求められます。
③選び方の基準(使用時間帯、電力使用パターン)
固定単価型と市場連動型のどちらが適しているかを判断するには、自社の電力使用の特徴を正しく把握することが重要です。
まず、使用時間帯に注目します。
たとえば、業務の大半が日中に集中している企業は、太陽光発電の影響でJEPX価格が安くなりやすい時間帯に電力を使っているため、市場連動型でのコストメリットが期待できます。
逆に、夜間に多くの電力を使う工場や冷蔵倉庫などでは、価格変動の影響を大きく受けやすいため、固定単価の方がリスクを抑えられる可能性があります。
また、年間を通じて電力使用量が一定しているか、それとも季節や日によって大きく変動するかも重要な判断材料になります。
変動が大きい場合は、市場の急騰に巻き込まれるリスクも高くなるため、リスク管理の体制も含めて検討が必要です。
さらに、どこまで自社で使用状況を管理できるかもカギになります。
電力使用の見える化が進んでおり、日々の価格に応じて使用量を調整できるような業態であれば、市場連動型を活かすことができるでしょう。
高圧電力の料金比較のポイントと注意点
電力会社を乗り換える際やプランを見直す際、単純に安い料金表だけを見て決めてしまうと、思わぬコスト増につながることがあります。
高圧電力は契約条件や使用状況に応じて実際の請求額が大きく変わるため、表面的な比較だけでは本当の差が見えづらいのが実情です。
ここでは、料金比較時に押さえておきたい3つの視点を紹介します。
①単価だけで比較しない理由
電力会社やプランを比較する際に、まず目につくのが電力量料金の単価です。
確かに単価は重要な判断材料ですが、それだけで優劣を判断するのは危険です。
その理由のひとつは、電気料金が基本料金、電力量料金、燃料費調整、再エネ賦課金といった複数の要素で構成されている点です。
たとえば、電力量料金の単価が安く見えても、基本料金が高かったり、燃料費調整額が毎月大きく変動したりすることで、トータルの支払額が割高になるケースがあります。
また、市場連動型プランでは提示されている単価は目安に過ぎず、実際には時間帯ごとに単価が変動します。
日別・時間別の使用パターンによっては、平均単価が想定以上に高くなる可能性もあります。
単価だけに注目せず、契約全体の設計を含めて比較する姿勢が求められます。
②契約電力・デマンド値の見直しも重要
高圧電力の基本料金は、契約電力に基づいて設定されます。
契約電力は過去1年間の最大デマンド値(30分間の平均使用電力)をもとに自動的に更新されることが多く、一時的な使用の増加でも翌年の基本料金が高止まりしてしまうリスクがあります。
そのため、電力量単価の比較と同じくらい重要なのが、契約電力とデマンド管理の見直しです。
業務時間の調整やピークシフトの取り組みなどによってデマンドを抑制できれば、翌年度以降の基本料金の削減につながります。
契約の見直しの際には、過去の最大デマンド値を確認し、現在の業務体制と照らし合わせて妥当な水準になっているかをチェックすることが大切です。
また、空調や大型機器の起動タイミングを調整するだけでも効果があります。
③シミュレーションの活用法
複数の電力会社や料金プランを比較する際、正確な判断材料として有効なのがシミュレーションの活用です。
単価表を見比べるだけでは実際の負担額は見えてこないため、過去の使用実績をもとに、他社プランで切り替えた場合の総額を算出することが重要になります。
とはいえ、詳細なシミュレーションを行うには、月別の使用電力量、契約電力、時間帯別の使用傾向、さらには燃料費調整や市場価格の変動など、複数の条件を考慮しなければなりません。
そのため、一からすべての情報を収集するのは手間がかかると感じる方も多いのが実情です。
しかし、実際には3つの基本情報さえ分かっていれば、複雑なシミュレーションの土台は十分に整います。
- 現在の電力会社
- 契約期間
※契約が自動更新なのか、期間中の変更に制限があるのかによって、乗り換えの自由度が異なります。 - 明細の有無
※電気料金明細が手元にあるかどうかで、試算の精度は大きく変わります。
使用電力量や最大需要電力(デマンド値)などが確認できれば、他社プランとの比較が可能です。
この3点がわかれば、あとはそのデータをもとに料金シミュレーションを行うことで、複数の電力会社のプランを現実的な金額で比較することが可能になります。
特に市場連動型プランのように価格が変動するタイプでは、使用時間帯の傾向を加味した分析が不可欠です。
高圧電力の料金比較は見える化が第一歩
高圧電力の料金プランを見直す際に注目される選択肢のひとつが、市場連動型プランです。
JEPX(日本卸電力取引所)の市場価格に基づいて電力量料金が変動するこのプランは、使い方によっては大きなコストメリットを生む可能性があります。
しかし、メリットを最大限に引き出すには、前提となる条件があります。
それは電気の使い方を見える化することです。
市場価格は時間帯や需要状況によって大きく変動します。
単価が安い時間帯に使用量を集中させることでコスト削減につながりますが、そのためには「いつ、どれくらい使っているか」「これから価格がどう変わりそうか」を把握する必要があります。
逆にこの情報がないまま市場連動型を選ぶと、急激な価格変動に対応できず、かえって電気代が高騰してしまうリスクもあります。
このようなリスクに備えるために、当社では「最適よそく」というサービスをご案内しています。
JEPXの価格データとお客様の使用実績をもとに、2週間先までの使用予測や価格予測を行い、判断材料として活用できるツールです。
市場の高騰時にはアラート通知も行えるため、急な価格変動に対しても事前に対策を講じることが可能です。
市場連動型プランの導入を検討している企業様にとっては、こうした見える化ツールの導入が、安心してプランを活用する第一歩となります。
なお、「最適よそく」について詳しく知りたい方や導入をご検討の方は、お気軽にお問い合わせください。