学校は、照明・空調・ICT機器など、日常的にさまざまな設備を使用するため、年間を通じて電力消費量が多くなります。
文部科学省などの調査によると、公立小中学校における年間の電気代は、1校あたり平均で300万円から600万円程度にのぼるとされており、電気代は学校運営における大きな固定費のひとつになっています。
近年では、エネルギー価格の高騰や為替の影響に加え、再生可能エネルギーの普及に伴う賦課金の上昇など、複数の要因によって電気料金そのものが上昇傾向にあります。
冷暖房の整備が進む一方で、電力単価が上がっているため、使用量を変えなくても請求額が増えているケースも少なくありません。
とはいえ、子どもたちの健康や快適な学習環境を損なわないことは最優先です。
ここでは、子どもたちの安心・安全を守りながらも、無理なく取り組める学校向けの節電対策を7つの視点から紹介します。
費用を抑えつつ、運用の工夫でエネルギー効率を高めるためのヒントとして、ぜひご活用ください。
電気代が学校経営を圧迫する今、求められる節電とは?
近年、電気料金の上昇が学校経営に大きな影響を与えるようになっています。
教育の質を保ちつつ、無理のない節電を進めるにはどうすればよいのか。
ここでは、電気代の現状と、教育現場に求められる節電の在り方について考えます。
①電気代は年々増加、予算や教育環境に影響
国立教育政策研究所が公表した「学校施設におけるエネルギー消費実態調査(平成30年度)」によれば、全国の公立小中学校では、光熱費の中でも電気代の占める割合が年々増加傾向にあることがわかっています。
特に注目されるのは、空調機器の設置が進んだことによる電力使用量の増加と、電力単価の上昇が同時に発生している点です。
この調査では、平成26年度から平成30年度にかけて、電気の使用量はおよそ8.8%増加しており、全体のエネルギー使用量に占める電気の割合も上昇しています。
一方で、灯油やガスなどの使用量は減少傾向にあるため、光熱費の構成は電気に依存する形へと変化しつつあります。
こうした変化により、学校の運営予算に占める電気代の比率は拡大しており、本来、教材費や修繕費、ICT機器の導入といった教育活動に使われるべき予算を圧迫する要因にもなっています。
調査報告では、冷暖房設備の整備が学習環境の向上に寄与している一方で、電気代の増加に対応する予算確保が課題として浮き彫りになっています。
また、調査対象の自治体では、冷暖房費の一部に補助制度を活用している例もありますが、自治体ごとに対応に差があり、持続的な運用のためには、設備更新や運用改善といった包括的な節電対策が求められる状況です。
このような背景から、学校現場では、単なる使用制限ではなく、設備の効率化やエネルギーの「見える化」など、無理のない形での電気代削減が必要とされています。
②エアコンを切るだけでは解決できない現場の声
節電の対策としてまず思い浮かぶのが空調の使用制限ですが、単にエアコンを切るだけでは根本的な解決にはなりません。
熱中症や感染症対策として、室温や換気の管理が重要視される中、空調を止めることで学習環境が悪化したという声も現場からは上がっています。
夏の教室内では温度が30度を超えることもあり、冷房を制限すると集中力や体調面に影響が出ることもあります。
また、換気が不十分になると空気の循環が悪くなり、児童・生徒の健康を守るうえでも問題となります。
このように、単純な使用制限では現場の実情に対応しきれない面があるのです。
③子ども・先生・保護者が納得する節電とは?
学校における節電対策は、教育の質や子どもの健康を損なわずに、関係者全体が納得できる形で進める必要があります。
そのためには、設備面の見直しや日常的な使い方の工夫が重要です。
例えば、LED照明への切り替えや、空調機器の定期的なメンテナンスによって電力消費を抑えることができます。
また、エネルギー使用量を数値で把握し、教職員や児童・生徒と共有することで、施設全体の省エネ意識を高めることも効果的です。
さらに、太陽光発電や蓄電池の導入など、再生可能エネルギーの活用も中長期的な対策として注目されています。
保護者や地域住民の理解を得ながら、教育の場としての機能を保ちつつ、持続可能なエネルギー活用を目指すことがこれからの節電には求められます。
学校に適した節電方法7選
学校では、照明や空調、ICT機器などさまざまな設備が日常的に使われており、電気代は運営費の中でも大きな割合を占めます。
限られた予算の中で教育環境を維持するためには、無理のない節電対策が必要です。
ここでは、学校現場でも実践しやすく、効果が期待できる7つの節電方法を紹介します。
方法①|LED照明とタイマー制御で電力の無駄を減らす
学校では、教室、図書館、体育館など、日常的に長時間照明が使用されています。
こうした照明設備をLEDに切り替えるだけでも、大きな省エネルギー効果と電気代削減が期待できます。
たとえば、教室で一般的に使用されているFLR40形2灯用の蛍光灯器具(消費電力:88W)をLED一体型照明器具(消費電力:25W)に交換した場合、年間の電力使用量は7,224kWhから2,100kWhにまで削減され、電気料金で約13万8千円の削減につながります。
省エネ率はおよそ71%に達します。
さらに、体育館に多く使われている高天井のメタルハライドランプ(416W)をLED高天井用照明器具(123W)に変更すると、1台あたり年間で約15,000円の削減が可能です。
40台設置されているケースでは、年間約41万4千円の削減効果となり、約70%の省エネが実現できます。
このように、LED照明への切り替えは、照明品質を保ちながらも、無理のない形でエネルギー消費を抑えられる非常に有効な手段です。
加えて、タイマー制御や人感センサーの導入によって、無人の時間帯に自動で消灯させることができれば、さらなる電力削減が可能になります。
方法②|空調の適切な使い方で快適さと節電を両立
学校における空調機器の電力使用量は、光熱費全体の中でも大きな割合を占めています。
だからこそ、日常の運用を少し工夫するだけでも、無理なく電気代を削減することができます。
たとえば、冷房の設定温度を25℃から26℃に、暖房の設定温度を26℃から25℃に変更するだけで、年間で約13,000円の電気代が削減可能です。
これは、消費電力量が年間で5,000kWhから4,500kWhに減少するという試算に基づいています。
さらに効果を高めるには、温度設定のルールを明確にし、教室内で見えるように掲示することが有効です。
外気温や季節に応じて適切な設定温度を決め、誰でもわかる形で運用ルールを共有することで、空調の使い方に対する意識が高まり、無駄な使用を防ぐことができます。
また、温度計をリモコンの近くに置く、空調使用中はドアや窓を閉めるなどの基本的な対策も忘れずに実施しましょう。
特に夏季は、風通しを工夫したり扇風機を併用したりすることで、体感温度を下げつつ冷房負荷を軽減することができます。
設備の性能に頼るだけでなく、日常の使い方を見直すことが、現場で実践しやすい省エネ対策となります。
方法③|使っていない教室の電源と照明はこまめに切る
学校には多数の教室があり、それぞれの使用状況や時間帯によって稼働状況が異なります。
しかし、使われていない教室で照明や電源がつけっぱなしになっていることは少なくなく、こうした見落とされがちな無駄が積み重なると、電気代にも大きく影響します。
たとえば、晴れている日は窓からの自然光だけでも十分に明るい場合があります。
そのようなときには、照明を使わずに授業を行うことができ、電力消費を抑えることができます。
また、黒板周辺の照明のみを点灯させるなど、教室内を部分的に照らす工夫によって、必要な明るさを確保しながら節電につなげることが可能です。
授業と授業の合間や昼休み、放課後など、明らかに教室が使われていない時間には、照明や電源をこまめに切る習慣を持つことが大切です。
その際、スイッチの近くに「今は照明不要」などのわかりやすい表示をつけておくと、誰でも迷わず消灯できるようになります。
教職員だけでなく、児童・生徒も日常的に参加できる形で節電に取り組むことが、省エネの実効性を高めるとともに、環境意識の向上にもつながります。
方法④|ICT機器の電源管理で待機電力を抑える
近年、学校におけるICT環境の整備が進んでおり、学習用コンピュータや電子黒板、プロジェクター、タブレット端末など、多くのICT機器が日常的に使用されるようになっています。
こうした機器の導入により教育の質は向上していますが、一方でエネルギー消費量の増加も避けられない課題となっています。
東京都の調査によると、教育用コンピュータの整備状況は、児童生徒1人あたりの台数が4.7人に1台という状況であり、整備計画で目標とされている「3クラスに1クラス分程度」の水準には届いていません。
しかし今後、整備がさらに進めば、サーバー室の設置やネットワーク関連設備の増加なども含めて、ICT関連の電力使用はさらに拡大していくと予想されます。
こうした背景から、電気の使用を単に制限するのではなく、ICT機器の使い方そのものを見直すことが、学校における新たな節電の重要な視点になります。
とくに重要なのが、使用後の電源管理です。
待機電力を減らすためには、授業が終わったら確実に電源をオフにする、長時間使わないときには主電源ごと切る、サーバーやルーターなどの常時稼働が必要な機器についても、省エネモードの設定やタイマー制御を活用するといった具体的な運用ルールを設けることが効果的です。
方法⑤|児童・生徒を巻き込んだ節電教育を行う
節電は設備面の対策だけでなく、利用する側の意識づけも重要です。
児童・生徒が自ら電気の使い方を考え、行動に移すことで、教室内の節電効果が高まります。
たとえば、使っていない照明の消灯や、冷暖房のドア開放を避けるといった行動を習慣づけることで、自然と省エネ意識が根づいていきます。
学校全体での取り組みとして、ポスター制作や節電目標の共有なども効果的です。
方法⑥|契約電力や力率の見直し、高圧契約の最適化を検討する
学校の電気料金は、実際の使用量に加えて契約電力によっても左右されます。
過去に使用が集中した一時的なピークに合わせて契約電力が設定されている場合、現在の実情と合っていないことがあります。
契約内容を見直すことで、基本料金の最適化が図れます。
また、力率が低下していると割増料金が発生する可能性もあるため、必要に応じて力率改善装置の導入なども検討するとよいでしょう。
方法⑦|補助金を活用して省エネ設備へ計画的に更新する
全国の公立小中学校では、再生可能エネルギー設備の導入が進んでおり、特に太陽光発電の設置が増加しています。
省エネルギー対策の一環として、これらの設備を計画的に整備していくことは、学校全体のエネルギー効率を高めるうえで重要な取り組みです。
クール・ネット東京のデータによると、再生可能エネルギー設備の設置件数は年々増加しており、たとえば平成20年度には全国で約1,300件だった設置数が、平成30年度には約9,000件を超えるまでに拡大しています。
中でも、太陽光発電設備が大きな割合を占めており、導入件数の中心を担っています。
東京都では、設置率がすでに3割を超えており、都市部においても積極的な導入が進められている状況です。
こうした動きは、学校のゼロエネルギー化や温室効果ガスの削減目標の実現に向けたステップとしても注目されています。
導入にあたっては、国や自治体が実施する補助金制度を活用することで、初期投資の負担を抑えることが可能です。
再生可能エネルギー設備は、設置後の維持費が比較的低く、長期的に見れば電気代の削減効果も期待できます。
これから設備更新を検討する学校では、補助金の活用を前提に、学校の規模や設置スペースに合わせた計画を立てていくことが求められます。
無理なく、気持ちよく取り組める学校の節電をめざして
学校における節電は、単に電気代を抑えることが目的ではありません。
子どもたちが安心して学べる環境を守りながら、無理のない工夫でエネルギーの使い方を見直していくことが大切です。
今回ご紹介した7つの方法は、どれも現場で実践しやすく、教育活動や快適さを犠牲にせずに取り組める内容です。
照明や空調の運用改善、ICT機器の電源管理、児童生徒を巻き込んだ取り組みなど、学校全体で協力して進めることで、節電はより効果的に、そして継続的な取り組みとして定着していきます。
岡山電力では、学校の設備状況や運用実態に応じて、最適な省エネ対策や電気料金の見直し方法をご提案しています。
ご相談や試算のご依頼は無料で対応していますので、現状に不安を感じている場合や改善のきっかけを探している場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
教育の場をより良く保つための節電は、無理をしすぎず、気持ちよく続けられることが何より大切です。