病院やクリニックといった医療施設では、空調や照明、CT・MRIなどの医療機器、医薬品の冷蔵・冷凍保存、給湯・換気といった設備が常時稼働しており、日常的に多くの電力を使用しています。
業種の中でも特に電気代の負担が大きく、施設の規模によってはその影響が経営全体に及ぶこともあります。
環境省のデータによると、500㎡程度の規模の個人クリニックでは、年間で約667万円(月額で約56万円)の電気代がかかるとされています。
また、100床規模の中規模病院では年間2,000万円以上、500床を超えるような大規模病院では、年間1億円を超える電気代が発生するケースもあります。
さらに、近年は燃料価格の上昇や為替の変動、再エネ賦課金の増加などを背景に、電気料金そのものの単価も上昇傾向にあります。
医療施設のように、電力使用量の削減が難しい業種にとっては、こうしたコスト増は経営を圧迫する大きな要因です。
ここでは、病院やクリニックの電気代が高くなりやすい背景を踏まえたうえで、今すぐ始められる電気代対策を4つご紹介します。
設備導入を伴うものから、日常の運用改善で取り組める方法まで、実例を交えてわかりやすく解説します。
病院とクリニックの電気代が高くなる理由とは?
医療施設における電気代は、一般的なオフィスや店舗と比べて高くなりやすい傾向があります。
その理由は単に使用量が多いというだけではなく、医療ならではの設備環境や運用体制に起因しています。
ここでは、病院やクリニックで電気代が高くなる主な3つの理由について解説します。
①24時間稼働する空調・照明・医療機器
病院やクリニックでは、診療時間外であっても空調や照明、冷蔵・冷凍設備、医療機器などが継続的に稼働しているケースが少なくありません。
特に入院設備を備える病院では、患者の安全や快適性を確保するために、空調や照明を常時運転させる必要があります。
また、CTやMRI、人工呼吸器といった医療機器の多くは、待機状態を維持するだけでも一定の電力を消費します。
これに加えて、院内のネットワーク機器、監視カメラ、ナースコールなども24時間体制で稼働しているため、年間を通じて電力使用量が高止まりしやすい状況になっています。
②快適性・清潔性を保つために節電しにくい環境
医療施設では、節電を進めるうえで制限が多いのも現実です。
外気との温度差を最小限に保つための空調管理や、衛生環境を保つための換気、明るさを確保するための照明など、医療の質や患者の安心感に直結する部分は簡単には削減できません。
たとえば、感染症対策として強化された換気量や空気清浄機の運転、個室や手術室での温度・湿度管理は、どれも重要な役割を持っており、これらを止めたり制限したりすることは現実的ではないという声も多く聞かれます。
このように、電力使用を抑えにくい構造が、結果として電気代の高止まりにつながっていると考えられます。
③老朽化した建物・設備によるエネルギーロス
築年数の古い病院やクリニックでは、建物の断熱性能が十分でない場合や、空調・照明などの設備が古く、エネルギー効率が低いことが少なくありません。
熱が逃げやすい窓や壁、効率の悪い空調機器や照明器具は、結果として余計な電力消費を引き起こします。
また、照明がすべて蛍光灯のままになっていたり、空調が個別管理されておらず常に全館稼働しているようなケースでは、最新設備と比較して20〜30%以上の差が出ることもあります。
建物の全面改修はすぐに行えるものではありませんが、運用の見直しや段階的な高効率機器への更新によって、こうしたエネルギーロスは徐々に改善が可能です。
病院とクリニックの電気代の内訳と主な消費源はどこか?
医療機関の電気料金は、他の業種と比べて高額になる傾向があります。
その背景には、日常的に電力を必要とする設備の存在だけでなく、使用時間帯の特性や消費構造にも理由があります。
経済産業省が発表した資料によると、病院・クリニックにおける電力の使われ方には、いくつかの明確な特徴が見られます。
医療機関では8時〜16時ごろにかけて電力消費が高くなる傾向があります。
これは、外来診療のピーク時間と一致しており、多くの医療機器が稼働し、照明・空調・PC機器なども同時に使用されるためです。
夜間は比較的電力使用が落ち着きますが、入院患者がいる施設では24時間稼働する設備も多く、電力使用が完全に止まることはありません。
電力消費の内訳を見ると、空調(冷暖房・換気)で約34.7%、照明で約32.6%を占めており、この2つだけで全体の約67%を占めています。
残りは医療機器6.6%、給湯設備2.0%、冷凍・冷蔵2.3%、エレベーター2.5%、パソコン3.1%、事務機器6.0%などに分かれています。
このことから、空調と照明が電気代の大部分を占めていることが明らかであり、これらの効率化がコスト削減の大きな鍵となることがわかります。
たとえば、空調設定の見直し、エリア別の制御導入、高効率な空調機器への更新、LED照明化、照度管理の最適化といった施策が有効です。
電気料金を見直す際には、まず「何に電気を使っているか」を把握することが重要です。
グラフで示されているように、特定の設備や時間帯に電力使用が集中している場合、そこに対策を講じることで効率よくコストを削減できます。
照明や空調などは運用の工夫でも効果が出やすいため、まずは小さな見直しから始め、必要に応じて設備の更新や制御システムの導入を検討することが望ましいでしょう。
このようなデータを踏まえると、電気代削減を目的とした改善活動においては、単に全体の使用量を減らすのではなく、消費が集中している設備や時間帯に焦点をあてることが効果的です。
たとえば、空調設備においては、稼働時間や温度設定、エリアごとの制御の見直しによって大きな削減が可能です。
照明に関しては、LED化やセンサー制御、不要箇所の照度調整などが考えられます。
また、古い給湯設備や医療機器を更新することで、電力効率が向上する場合もあります。
このように、施設ごとの使用実態に合わせて、エネルギーの「使い方」を可視化し、消費の大きい部分から順に見直していくことが、合理的かつ効果的な省エネ対策になります。
病院とクリニックの電気代高騰への対策4選
近年、電気料金の高騰が続いており、病院やクリニックにおけるエネルギーコストの見直しは喫緊の課題となっています。
医療現場では電気を多く使用する一方で、安易に使用を減らすことが難しい場面も多いため、無理のない削減策や効率的な設備運用が求められます。
ここでは、医療施設が取り組みやすい4つの電気代対策をご紹介します。
コスト削減策①|空調・照明設備の高効率化
電気代の中でも大きな割合を占めるのが、空調と照明です。
病院では24時間空調が必要なエリアも多く、照明も常時点灯されていることが一般的です。
これらの設備を高効率機器に更新することで、運用は変えずに消費電力を抑えることが可能です。
具体的には、インバーター制御付きの空調機や、高効率LED照明の導入、照度センサーやタイマーによる自動制御の組み合わせが効果的です。
初期投資は必要ですが、電気料金の削減効果は長期的に見て十分に見込まれるため、運用コストの平準化にもつながります。
コスト削減策②|デマンド監視と見える化で電力の使いすぎを抑える
電力使用量が一時的に集中すると、契約電力の基準が引き上げられ、それに応じて基本料金が増加してしまうことがあります。
これを回避するには、「いつ・どこで・どれくらい電気が使われているのか」を的確に把握することが大切です。
デマンド監視システムを導入することで、施設全体の電力使用状況をリアルタイムで把握できるようになり、使用量がピークに近づいた際に警告を受け取ることもできます。
また、過去の使用傾向を分析することによって、特定の時間帯や設備に負荷が集中していることがわかり、稼働のタイミングを見直すきっかけにもなります。
こうした見える化の取り組みにより、必要以上に電力を消費している部分を特定し、稼働の調整や分散を行うことで、過剰な電力使用を抑えることが可能になります。
日々の運用の中で無理なく取り組める対策として、非常に効果的な手段です。
コスト削減策③|契約電力・力率の見直しと高圧契約の最適化
現在の契約電力が実際の使用状況に対して高すぎる場合、基本料金を無駄に支払っている可能性があります。
また、力率(電気の使い方の効率)が低いと、追加料金が発生することもあります。
契約内容や請求書を確認し、過去1年の最大デマンド値や力率を見直すことで、本来の使用量に見合った契約に調整することが可能です。
高圧受電契約を結んでいる施設では、キュービクルの容量や保安管理体制なども含めたトータルでの最適化が求められます。
コスト削減策④|省エネ改修・再エネ導入と補助金活用
照明や空調の更新だけでなく、断熱改修やBEMS(ビルエネルギー管理システム)の導入、太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入も中長期的なコスト削減につながります。
これらの取り組みは、環境省や経済産業省、自治体が実施する補助金制度の対象となることも多く、補助金を活用すれば導入負担を抑えて実施することが可能です。
設備投資は必要ですが、補助率や支援制度を上手く活用すれば、投資回収期間を大きく短縮でき、以降は運用コストの低減効果が継続的に得られます。
病院・クリニックにとって、電気代の削減は医療の質を落とさずに経営を安定させるための重要な取り組みです。
まずは現状の契約や設備の運用を確認し、自施設に合った改善策を段階的に導入していくことが、無理のないコスト削減につながります。
病院とクリニックの電気代削減方法はご相談ください
空調や照明、医療機器など常時稼働が必要な設備が多い病院やクリニックでは、電気代の負担が大きくなりやすく、しかも簡単に使用量を減らせないという課題があります。
しかし、設備の見直しや電力契約の最適化を行うことで、無理のないコスト削減を実現することは十分可能です。
たとえば、自家消費型の太陽光発電を導入することで、日中の電力を補うことができ、電気料金の削減につながります。
また、電力の切り替えにより、契約条件を見直して電気代を抑えることも可能です。
岡山電力では、病院・クリニックの運営実態に合わせて、太陽光発電の導入支援や電力会社の切り替えに関するご相談を無料で承っております。
施設規模や現在の契約内容をもとに、具体的な削減効果の試算もご提案できます。
今の電気代を少しでも見直したいとお考えの方は、どうぞお気軽に岡山電力までご相談ください。